山形氏の「矛盾」

経済成長は、ぼくたちの努力や成長の総和でしかない。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

ぼくたちが経済成長するということは、別にぼくたちがお金を貯め込むということではない。たくさん生産して、その分たくさん買うようになるということだ。そしてその買う相手は日本だけじゃない。アメリカやアジア、各種発展途上国もある。ぼくたちが経済成長すれば、そうした国々の商品を買って、その国々の経済成長――つまりはかれらの生活水準の向上――を助けることになる。かつて 1997-8 年頃にアジアの通貨危機が起きたとき、日本の景気がよくて経済成長がもっと高く、アジア諸国からもっとたくさん買ってあげられていれば、インドネシアはあんなひどい状況にならずにすんだかもしれない。アメリカだって、住宅需要減速におびえる状況が少しはましになっていたかもしれないし、ヨーロッパだってもう少し楽に息ができるようになっただろう。そして相変わらずろくでもない状況のアフリカのものだって、少しはおおめに買ってあげられて、かれらも少しはましな状態になっていたかもしれない。

 それはある意味で、経済大国の責任でもある。自分が飽食して、欲しいモノが一通りそろい、ネットもパソコンも家も持ち、ブログを書き散らすだけのゆとりが手に入っているからといって、日本全体に対して成長をやめろというのは、ある意味で世界第二位の経済としての責任を放棄しろといっているに等しい。それは、自分の身の回り三メートル四方しか見えていない近視眼の告白でしかない。

http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20061116#c1163670425

で、ぼくの認識では、いま飢餓の起きているところは純粋な食料不足や先進国がハンバーガー喰いたさに後進国を収奪しているのが原因ではなく、ほとんど内戦だの近視眼的政府の悪しき価格統制や商人いじめなんかでその国内の流通が機能していないせいで起きるのだ、というものです。

http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20061116/p1#c1163672298

# ? 『>内戦だの近視眼的政府の悪しき価格統制
>や商人いじめなんかでその国内の流通が
>機能していないせい
じゃあ、日本の経済成長も関係ないんだね。
なるほど』

http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20061116/p1#c1163672694

# 飢餓国民 『
日本に経済成長して頂きましても、我々の国内流通には影響しないので、立場的にはニュートラルです』

# 地紺 『山形オワタw』

山形先生の議論の整合性以前に、東大卒である、英語がよくできる、アカデミックな世界にいないのに下手な学者より物知りで頭が切れるなど、私同様のコンプレックスを背後に感じてしまうのは、私自身のコンプレックスのなせる技なのでしょうね。

などは、さておき、私の駄文などより、上記の議論のほうが問題の核心だと思います。でも、山形さんの記事の引用以外の部分を読むと

明日はもう少し能率よく仕事を片付けて、あまった時間で新しい何かをやろうと思う。いまは捨てているこのピーマンのへたを、新しい料理に使ってみようと思う。そうした各種の無数の努力が積み重なっていく様子を想像してみなきゃいけない。GDP成長が 1%とか 2%とかきいたときに、その背後にある多くの人々の努力と知恵を思い浮かべなきゃいけない。

多少は仕事がうまくなった、多少は手際がよくなった、多少は知恵がついた、多少はいろんな面で腕をあげたと思わないだろうか。それは必ずしも無理強いされたものじゃないはずだ。かなりの部分は自分から喜んで向上させた技能のはずだし、それが実現できたときは本当にうれしかったはずだ。

 それがまさに経済成長の元だ。

と経済成長の源泉についての議論はむしろ、私へのコメントとむしろ整合性があるといえます。このコメントでは積極的に成長の源泉にはふれられてはいませんが、発展途上国の成長要因として国内要因を重視しているのは明らかです。

たしかに、これは冒頭にあげた「経済大国の責任」云々とは矛盾しているとはいえるでしょう。しかし、この部分はおそらく、山形さんにとってはマイナーな問題で、本筋は経済成長の源泉が生産性の向上であり、そのエンジンは成長政策などではなく、ちまちまとした努力の集積なのだということだと思います。したがって冒頭の部分はDanさんの売り言葉に対して筆がすべってしまったと考えるのが妥当でしょう。

山形さんが「オワタw」かどうかは、私のように山形コンプレックスを抱いている一部のオタクにとっては大変な問題です。しかし、それ以上に、先進国の豊かさは発展途上国に波及するのか(あるいは従属が発展を阻害しているのか)、それとも、発展途上国の成長は基本的には発展途上国の国内問題とみなすべきなのかという論点の重要性は見逃すべきではありません。

追記

下のコメント欄でふまさんから通報。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_b2d6.html のコメント欄が、
この件に関して興味深いです。私は教養がないので大変勉強になりました。