トンデモ嫁に関するフィールドワーク

えー、私の家って結構トンデモで、ホメオパシーの本とか、先日稲葉さんもふれてたシュタイナー教育の本とか、いっぱいあるんです。ホメオパシーとか、バッチのフラワーレメディーとか家内がこっています。きくちさんのブログでもホメオパシーのエントリがありますけど、あんまり当のトンデモと同居している人間のレポートはあまりないと思います。その意味で皆様のお役にたてれば幸いです。

家内は今風邪で寝込んでいますので(御察しのとおり、波動入りの砂糖玉をなめたり、感染予防のためになんか焚いたりしてます。)、無断であとで家内に怒られそうなことは書けません。その点ご配慮願います。

家内がホメオパシー等にのめりこんだ遠因は家内の父親の病気にあると思います。家内の父親は脳卒中で半身不随になって、リハビリも十分でない状態で今度は胃癌になって、胃のほとんどを切除しました。その際、某大学病院に入ったのですが、私達の側の偏見だったのかもしれませんが、どうもその主治医は半身不随の状況で胃を切除という珍しい実験材料にめぐりあえてルンルンというように、私と家内、そして、家内の母には映ったのです。すくなくとも家内の母は胃をいくらなんでも切りすぎだろと感じて、たぶん、医師にもそのことを尋ねたのでしょうが、納得いく説明はなかったようです。ただ、とにかく本人は医師に対して否定的なことを周囲がいうのを好まなかったこともあって、医者のいうまま手術をうけました。結局、義父は手術をうけましたが、脳卒中のリハビリと突然小くなった胃への適応を同時にするはめになり、それは苦しい闘病生活でした。この経験は家内にも、私にも医者は信用できないという不信感をうえつけました。

そのことと並行して、家内は妊娠し、出産しました。家内の妊娠をしり、ミキプルーンをやっている家内の友人がたずねてきました。義父の病気の関係もあり、家内は実家にかえることが多かったのですが、妊娠中からミキプルーンのひとが来て、家内にいろいろと忠告するようになりました。多分、これを読む人はどちらかといえばマルチ商法に反感をもっている人がいるかも知れませんが、プルーンを始め栄養補助食品を度を越えて食べるのを推奨する以外は、ミキプルーンの人は基本的には「おもいっきりテレビ」や「あるある」のような突飛なことは勧めなかったように思います。基本的には適度に運動し、栄養に気をつけましょうということでした。それと家内に接したミキプルーンの人はのちに出会ったアムウェイ*1の人達のような守銭奴の雰囲気がぜんぜんありませんでした。本気でミキプルーンに出会ったことを感謝し、心から義父の健康と家内の無事な出産を願い、それをサポートしようとしているようでした。

妊娠中はミキプルーンの人がすすめるほど熱心ではありませんでしたが、家内は栄養に気をつけた食事をしました。ミクプルーンとはそのうち疎遠になりましたが、ミキプルーンよりはるかに安いプルーンが近所の薬局でうっていたことがおおきかったように思います。(私はミキプルーンの人に薬局のプルーンとお宅のはどうちがうのか尋ねたことがあります。はっきりと答えてくれませんでしたが、へんに自分とこのプルーンがいいなどと嘘をいわなかったことは今でも誠実さを感じます。)そのかいもあってか、でかくて健康な赤ん坊がうまれました。

ミキプルーンの人のメッセージは健康の一番の鍵は栄養であり、それさえ気をつければ、健康になれるということです。だから、健康は医者でなく、個人が自力で管理できるということになります。このメッセージはミキプルーンと疎遠になっても、夫婦ともども、影響をうけました。また、子供も生れた子供も大きく健康だったのは、栄養のためのようにも感じました。

家内の妊娠と関連して、もう一つ我が家の医療観に影響をあたえたのは、助産婦さんの助けで自宅出産したことです。家内はおそらくは義父の経験もあって、病院で子供生むのはまっぴらと考えていました。それで家内は自宅出産のガイド本などを参考に自力で助産婦をさがしてきました。助産婦さんは子供が生れる日の朝、二人で6時ごろ自宅に来てもらって、夜の11時頃の出産を経て、朝の4時頃まで自宅にいてくれました。ほとんど一日一人に妊婦に二人つきそってもらったのです。出産が近づくと、助産婦の娘さんも来てくださって、3人がかりの出産となりました。出産費用は病院とかわりません。次の日には、食事もままならないだろうと富山の名産の鱒寿司をもってきたくださったりもしました。これほどの手厚さというか親切さは通常の病院では考えられないのではないでしょうか。

それと、子供は健康でしたが、実は下手糞な産婦人科医なら、難産になってもおかしくないケースだったのが、出産時にわかりました。臍の緒がくびにまきついていたのです。にもかかわらず、助産婦さんたちが難無くこのことを処理し、安産でした。

一回きりの経験ですので、因果関係は不明ですが、とにかく我々夫婦は健康な子供が授かれたのは、栄養と助産婦さんのお陰と考えました。(助産婦さんのおかげのほうは、今でも確信してます。)それで、この出産の経験は家内の医療観というか健康観に大きな影響を与えたと思います。ミキプルーンの健康は自力でというか病院の力を借りずに管理できるというメッセージは彼女の中で確信に変ったように思います。

そのうち、子供が保育所にいくころ、家内は突然(と私には見えました)使命感にもえだして、シュタイナー教育の勉強をはじめました。富山でシュタイナー関係の活動をしている人達をさがして、そのサークルに参加しました。シュタイナーの人達のなかにはフラワーレメディとかホメオパシーに関心を持っている人が多く家内もすぐに感化されました。

ここで、疑似科学批判の人に伝えたいのは、ホメオパシーとかフラワーレメディにひかれる人は必ずしも効くとか効かないとかを問題にしているのではないように見えることです。確かに彼らは人にすすめるとき効き目を話すでしょう。しかし、実際にホメオパシーをしている場面を見れば、それは治療というより、カウンセリングです。ホメオパシーでは同じ症状であっても、各自の根本体質ごとにちがう薬(というか砂糖玉、「波動」がちがうだけなんで、科学的にはどれも同じはずです)を与えるので、根本体質と病状の関係をさぐります。実際の治療は砂糖玉なめるだけなんで、治療のほとんどは、その人の根本体質をさぐる、つまり、その人がどんな人かさぐること、そして、その根本体質と病気の関係をさぐることです。つまり、「あなたはどういう人で、あなたにとってこの病気ってなに」っていうことについて、延々話をするためです。治療者が治療される人の人格に向けられる注意の量は通常の医療とくらべものになりません。それ自体、少なくとも精神衛生にはいい影響はあるように感じます。それとホメオパシーは科学的根拠があるかどうか別として、自分にとっての病気って何かということに答えを与えてくれます。多分、この部分が通常の医療でうめられない限り、ホメオパシーやフラワーレメディをしている人はトンデモでありつづけるでしょう。そして、自分の妻がそうだからなのかもしれませんが、こういうものを医療に求めるのは、そんなに変なこととは思えないのです。

実際、医療全般に不信感をもっている家内でさえ、患者の人格に注意を向けてくれる医者は信用します。私たちは子供の3歳児検診のときにある小児科の先生に出会いました。息子は、多分、父親からの遺伝で学習困難の傾向があります。3歳から小学校にあがるくらいまで、その先生のところへ定期的に息子の発育状況を見てもらいに通いました。先生は御自分が小さいとき学習困難であると、最初に私と電話で話したとき伝えてくださり、通院の際も検診というより、息子と本気であそんでくれているようでした。また、息子は小学校にあがるとき、半分詐欺のような手口で養護学校にいれられかけた*2ことがあったのですが、そのときも、学校にどのように対処するかアドバイスをしてくださいました。彼には夫婦ともども全幅の信頼を寄せており、家内の頭のなかの悪い病院のカテゴリーに、この先生の病院は入っていないのは確実です。

もう一つ、これは家内ではなく、私自身の経験なのですが、私は家内がシュタナー仲間とやっているオイリュトミーという、簡単にいえばシュタイナー流のダンスを一緒にやっています。そこのオイリュトミー教師の穴田さんという方がいて、私が体調がわるいと、野口整体の気功のようなものをしてくださります。私は穴田さんは医学的な意味ではなく、ダンスも含めて、体のことをよく知っている方だと尊敬していて、穴田さんがやっているのはじっとしている私を触っているだけなのですが、非常に体が楽になる気分がします。これを読むであろう人のためにあえて穴田さんに失礼な視点でいえば、医学生理学的にはなんも起っていないのかもしれません。(自分ではそうでないように感じるのですが)ただ、敬意をもっている人が一生懸命に自分の体に注意を向けていることは、それだけで、少なくとも精神的には癒やされるのです。

それともうひとつ指摘したいことがあります。私の家内の場合、ホメオパシーとかフラワーレメディはシュタイナー関係の人脈でつたわってきたものです。共同体とまでいきませんが、家内にとってはシュタイナー関係の人達はかけがいのない友人です。シュタイナーとかホメオパシーとかいったものは、トンデモであるかもしれませんが、そういった人間関係をつなぐ媒体になっています。ちなみにいいますと、家内が関係している森のプレイグループというシュタイナー関係の育児サークルでは世間の少子化とは逆行して、やたら子供が増えています。実際、相互に出産なんかでも助けあっているようです。ちなみに私の二人目の子供の出産も自宅出産でしたがシュタイナー関係やら、助産婦さんがやっている育児サークルの人がたくさん助けに来て、まるでお祭のようでした。家内の周辺でホメオパシーが広がっているのは、効くとか効かないが問題ではなく、例のトンデモな波動やらなんやらの理論が、シュタイナーサークルの人間関係と親和的な側面があるのではとも思います。シュタイナーも、ホメオパシーも、フラワーレメディーもトンデモですが、妻の人脈でそれらを科学的なものに置き換えるのは非常に困難なことは容易に想像できるでしょう。

最後にホメオパシーの実害についてですが、一例をあげると、娘が玄関の鉄の扉に指をはさんだときに、家内が外科的な応急治療の前に、砂糖玉さがしにいったときはキレました。「そんな場合でないだろう」と怒鳴ってしまいました。私が不在のときに、家内自身や子供の重病を砂糖玉ですましてしまいそうなのが怖いというのが正直です。医者も全然信用してませんし。

*1:実際に勧誘の集会につれていかれました。実は我が家の鍋と掃除機はアムウェイです。

*2:その詐欺をした校長の小学校を避けることもあって引越しをしました