Give and Give and Give

しばらく前になるが、小飼弾氏のブログで坂口恭平氏の『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』を知って(404 Blog Not Found:都市の(不)幸 - 書評 - ゼロから始める都市型狩猟採集生活)、近くの図書館から過去の坂口氏の本を借りて読んだ。『ゼロから…』のほうは読んでいないが、小飼氏の疑問が以前の本を読むとわかる。

しかし彼らの発電能力は、冷蔵庫を断続運転させるには十分でも空調までは得られない。これが即物的な疑問その一。彼らは夏--特にこの夏--をどう凌いでいるのか。

しのげていない。夏の夜にいくら水を飲んでも、暑くてたまんない様子が『隅田川のエンジン』に書いてある。『隅田川のエンジン』は小説だが、たぶん、この部分は事実をもとにしているだろう。まあ、ホームレスでなくても、私も学生時代に冷房なしの大阪の安アパートで暑さで体をこわしたことがあるので、こんなもんだと思う。

おれは、家全体をビニールシートで包んでいたが、夏は屋根だけを覆い、他は全開にして風が通るようにした。

(中略)

でも、全開にしたら、蚊がすごいわけ。しかも川辺だから尋常じゃない。

蚊取り線香なんて、普通の家のように蚊のいないところだったら効くけれど、川辺は駄目だよ。加の中で寝ているようなもんだった。

そんな状態で気が変になり、マーコはなんか独り言を言いはじめた。
隅田川のエンジン』128ページ

彼らはどうやって意味を得ているのか。あるいは意味欲を逃れているのか。

坂口さんが取材したホームレスは務め人ではないが、多くは働いている。それは狩猟に近いものだ。もしかしたら、そのノウハウだけに注目すると、彼らは都市のホームレスでない住民から、自分の生活に必要なものだけをぶんどっているように見えるかもしれない。もし、それだけなら、小飼氏の疑問もとうぜんなのだが、彼らの多くは狩猟したものを仲間にあたえている。彼らは自分の狩猟の成果を仲間にあたえることで、意味を得ているのではないだろうか。

ここで、おもしろいのは、彼らの間で狩猟した物品が流通する一種の経済ができていることだ。それは市場のような交換経済ではなく、典型的な贈与経済である。仲間に与える人のまわりには人があつまり、それによって、逆に与えられる機会が増えることで*1与える人が豊かになっていく。

彼らはたぶん、我々が労働によって意味を得るのとはちがうやり方で意味を得ている。我々は与えられるもの(takeするもの)に対して、与えるもの(giveするもの)がうわまわっていることで安心する。自分の意義があると思う。しかし、彼らは単純にgiveすることに意味を見いだしているように見える。

坂口氏の著作について、ホームレスにもコミュニケーションスキルが必要とか、ホームレスにも勝ち組と負け組がいるとかいうブログでの感想がいくつかあるが、かなりミスリーディングに思う。

コミュニケーションスキル宗教を布教したアホ社会学者は非モテが女からセックスや恋愛をgiveしてもらえないことにつけこんで、「おいこらコミュニケーションスキルつけろや!」と脅すが、これは、giveしてもらうためには、こっちも女にgiveしろと事実上いっていることになると思う。この文脈ではコミニュケーションスキルとはセックスや恋愛への支払いをかせぐための資産にすぎない。宮台的コミニュケーションスキルのすすめは、金で女が買えなければ、他の資産をつくれといっているのに等しい。

坂口氏の取材対象となったホームレス達はとにかく、giveされる前にgiveする。giveされようがされまいがgiveする。坂口氏が適切に名付けたとおり、give and give and giveである。このなかに我々のようなgive and takeでしかかんがえられない人間がまよいこんだ場合、あるいは、社会学者に洗脳され、takeとgiveを釣り合わさなければならないと考えた人間がまよいこめば、おかしなことになりそうである。そのような人間は、give and give and give のなかでは、giveされたものに見合っただけしかgiveしないあさましい人間とみえてしまうだろう。

ホームレスだろうがなんだろうが、うまくいっている人間とそうでない人間がいること自体はあたりまえのことで、むしろ、坂口さんの取材したホームレスでうまくいっている人たちが、私たちの社会の「エートス」とまるきり違う原則で行動していることと、にもかかわらず、彼らが私たちと同じ空間で生活していることが驚きだ。彼らは、ホームレスのなかでの勝ち組をめざしていないし、コミニュケーションスキルを身につけようとしたわけでもない。

ゼロから始める都市型狩猟採集生活

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TOKYO 0円ハウス0円生活

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隅田川のエジソン

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*1:隅田川のエンジン』ではセックスまでそのように「流通」している様が描かれている