足し算と掛け算でわかる全要素生産性と雇用の問題ー池田VSリフレ派
池田先生の説教でいろんな論文読ませていただき、勉強になりました。まあ、いろいろと議論はあるのですが、ちょっととっても単純なとこがみのがされているように思っているのです。結論から先にいえば、依然、金融政策が必要かどうかは、実証の問題で早急に結論をつけるわけにはいかない。あー、おもろない結論。
それで、最低限の議論が可能な単純なモデルをつくりましょう。一つの経済で、労働者が100人いて、高い生産性のプロジェクトと低い生産性のプロジェクトの2種類のプロジェクトがあったとしましょう。計算がしやすいように、高い生産性のプロジェクトの生産性を2、低い生産性のプロジェクトの生産性を1としましょう。このわくぐみでは全要素生産性は経済全体の生産性の平均です。たとえば、50人が高生産性プロジェクトに従事し、50人が低生産性プロジェクトに従事していたとしましょう。経済全体の産出つまり、GDPは1×50+2×50=150、経済全体の平均的な生産性は(1×50+2×50)÷100=1.5となり、この値が全要素生産性にあたるものです*1。
すぐにわかるのは、いまあげた50人が低生産性プロジェクトに従事し、50人が高生産性プロジェクトに従事している状況は、効率的とはいえませんね。なぜなら、低生産性プロジェクトの50人に高生産性プロジェクトに移動させれば、GDPは2×100=200となり、GDPが50あがります。このときの全要素生産性は2であり、さっきより、1増えます。労働者の数、つまり雇用量がおなじなら、GDPは雇用量×全要素生産性*2となります。生産性やGDPをひきあげる余地があるということは無駄があるということですから、効率的とはいえないわけです。池田先生の主張は単純化していえば、低生産性プロジェクトの労働者を高生産性プロジェクトに移動して、GDPを増加させろということです。池田先生がネット上で有名にしたゾンビというのは、銀行が追い貸しによって操業をささえている低生産性プロジェクトです。星岳雄さんほかの研究によって、このような企業が相当数あることが確認されています。このような低生産性プロジェクトは早くつぶしたれ、金融政策で温存するなどもってのほか、ということなのでしょう。
しかし、ゾンビというか、低生産性プロジェクトの広汎な存在自体がすぐに金融政策に反対すべき理由になるかどうかは微妙です。たとえば、先程から労働者100人としていますが、これは雇用された労働者の数で失業者はふくんでいないと考えましょう。失業者は50人いるとしましょう。このケースでは政府の方針として、とにかく、失業者に低生産性プロジェクトでもいいから、とにかく雇用量をふやすのが、先決ということになる可能性があります。まあまあ普通の判断なら、低生産性プロジェクトの労働者を高生産性プロジェクトに移動させるより、雇用を増やすほうが簡単です。また、新規プロジェクトにわざわざ低生産性プロジェクトを採用する馬鹿な貸手、ないし、企業はあんまりいないとすれば、新規プロジェクトは高生産性プロジェクトと考えてよいでしょう。すると、雇用量をそのままで、低生産性プロジェクトを高生産性プロジェクトに置き換えるた場合、それによるGDPの上昇は50ですが、これは25人の労働者を高生産性プロジェクトに新規に雇用させることで実現できます。
しかし、そもそも、失業者がそんなにいなかったらどうでしょうか。そもそも失業者が10人しかいなければ、雇用量をふやしても、低生産性のプロジェクトを高生産性のプロジェクトに移動させてえられるGDPの増加をえることはできません。その場合はとにかく、低生産性プロジェクトをつぶして、高生産性プロジェクトに移動させることが、GDPを増加させる唯一の方法となります。
しかし、失業者がいなくても、低生産性プロジェクトを温存することが正当化される場合がありえます。それは低生産性プロジェクトから、高生産性プロジェクトへの移動に時間がかかる場合です。例えば、現在低生産性プロジェクトにいる人々を高生産性プロジェクトに移動させるためには、2期間の教育期間、あるいは、職さがしの期間が必要だとしましょう。それで、現状維持と、労働者を移動させた場合の4年間のGDPの総計を比較をしてみましょう。
現状維持なら、150×4=600です。
移動させるなら、一年目と2年目は50人の高生産性労働者が生産を行い、3年目と4年目は100人の高生産性労働者が生産を行なうことになります。したがって、(2×50)×2+(2×100)×2=600となります。
GDPの総計は一緒ですが、つうじょう、現在のGDPの方が将来のGDPより、高く評価するのが普通です(時間選好)。したがって、1年目と2年目に高いGDPをえられる、現状維持のほうが、好ましい政策といえます。また、現状で低生産性プロジェクトに従事していた人は高生産性プロジェクトに移動する場合、2年間失業を経験することになり、公平性の観点からも望ましくありません。
結果をまとめると
- 失業者が多く、低生産性プロジェクトから、高生産性プロジェクトへの移動が困難ならば、全要素生産性より、雇用対策のほうがのぞましくなる可能性が高い。
- 失業者が少なくとも、低生産性プロジェクトから、高生産性プロジェクトへの移動に時間がかかるなら、現状維持のほうが望ましい場合がありえる。
単純なモデルというか、数値例ですが、この枠組みでいえることで、まだまだ、いいたいことはあるのですが、こんなもん、経済学の知識がなくても、あそべると思いますので、興味があるひとは、電卓片手に、リフレ派の勝ちとなるケース、池田さん、林=プレスコットが勝ちとなるケースをいろいろ考えてみると面白いと思います。ここで、示していないケースとして、高生産性プロジェクトの雇用量に上限があって、失業がゼロだと、一定の労働者は低生産性プロジェクトに従事しなければならないケースです。
いずれにしても、いろんなパターンがあるので、現状の日本経済がどういう状態なのか、実際のデータにてらして判断する必要があろうかと思います。