林文夫本の印象

経済停滞の原因と制度 (経済制度の実証分析と設計)

経済停滞の原因と制度 (経済制度の実証分析と設計)

頭に血がのぼって眠れそうにないので、ずっと書こうと思って書けなかった林文夫本について、入手して一ヶ月になるのに、ほとんど、第一印象のような感想を書く。

池田先生*1はリフレ派批判の根拠としてこの本を紹介してます。論点は2000年代の日本経済の低迷は金融政策が原因か、あるいは、サプライサイドの要因が重要であったかということです。私の結論は玉虫色です。

私は実証の論文は読みなれてないので、各論文について、イントロと結論を丁寧目に流し読みして、途中はとばし読みという程度なのですが、着目すべき点は次の点です。

  • 金融政策が万全であったとしても、2000年代の経済の低迷はおそらく避けられなかった。
  • しかし、日銀の政策よりもGDPの水準を増加させる金融政策はありえた。
  • 全要素生産性の低下がすべてサプライサイドの要因に帰されると断言している論文はない。

したがって、私の印象としては、金融政策の有効性を主張したり、有効な金融政策をとらなかったことを根拠に日銀を批判することも、全否定されるわけではありません。ただ、日銀が最適な金融政策とることで増加するGDPがあまりにも小さいとすれば、日銀を批判したり、代替的な金融政策を提案したりする意義は小さくなるでしょう。

また、池田先生はゾンビを解消する退出政策(というか退出をさまたげないこと)を勧めておられると理解してますが、全要素生産性の低下における需要の役割が全否定されたわけではありませんので、退出政策が有効であるかどうかは、さらなる実証研究を待つべきではと思います。まあ、要は池田先生の私へのコメントへの返答どおりかと。

こういう「ミクロ派」とリフレ派のどっちが正しいのかは、まだ学問的に決着のついていない問題でしょう。私が批判しているのは、それをあたかも決着がついたかのように語り、「構造改革なんて幻想だ」と称する連中です。経済モデルの中身を知らないジャーナリストには、こういう話の支持者が多い。

ただ、本書が出版されたことで、全要素生産性の問題を無視して、リフレを主張することがやりにくくなったのは否定しがたいのではないでしょうか。もう少し自分でも勉強したいですが、多分私よりきちんと読める人がブログ上にいっぱいいると思うんで、あとはよろしく。

*1:この文脈においては私にとって池田氏は先生です。ゼミの先生のようにちゃんと勉強せいと叱ってくださいますし