冷戦的科学

「政策のあり方をめぐっての主張の対立には、経済の科学的分析の背後にあるイデオロギーや政治的信条の相違が反映されており、それらの白黒を科学のレベルで解決することは原理的に不可能であろう。」(福岡正夫『ゼミナール経済学入門』)

80年代までの教科書ではおきまりの文句である。「科学で政策のありかたをめぐった主張の対立」を解決できないときもある。それは理論と実証の両面から、対立する主張の双方のいずれにも決着をつけられない場合だ。決着がつけられないのは、可能な説明が複数ありうるからであって、イデオロギーとか政治的信条の相違にあるのではない。にもかかわらず、80年代までの教科書のほとんどにこういう表現があったのは、科学的分析よりも政治的信条が優先される、もっといえば、科学的真実よりも社会主義陣営と資本主義陣営のどちらが勝つかとういうことが優先されていたからだと思う。