疑似科学というか、詐欺科学と経済学

柘植さんやpoohさんへの御礼として、経済学の側面から疑似科学について書きたいと思っている。ただ、今は個人的な関心で疑似科学問題にはまっちゃってて、きちんとした分析なりをする時間がない。ただ、詐欺として疑似科学について、以前からぼんやりと考えてきた問題をちょっと書きたい。まあ、疑似科学という詐欺一般についての話なのだが。

売り手に詐欺師がある程度ふくまれている市場の分析は情報の経済学である程度できるだろう。具体的には多くの教科書で情報の経済学の導入としてとりあげられている中古車市場の分析を応用することができそうだ。ただ、そのとき、売り手の目的関数を単純に利潤と置いていいのだろうか。もし、詐欺師が市場に存在していて、なおかつ、詐欺師のほうがまっとうな売り手より利潤がおおい状況があったとする。この場合、もし通常の分析のように売り手の動機が利潤であるなら、まっとうな売り手も詐欺師になるのが合理的である。

しかし、これは現実の詐欺の状況をあらわしているだろうか。科学分野にかぎらず、売り手が詐欺しようとすれば、詐欺ができる市場はけっこうある。専門性が高く、売り手の仕事の質の評価が難しい分野は、ほとんどそうであるだろう。しかし、一つの市場の売り手が全て詐欺になって、市場が壊滅するという状況はそれほど頻繁でないのではないだろうか。

この状況を簡単に解決する方法は売り手は利潤をあげるとともに、道徳的な行動をすることへの選好をもっていると仮定することである。この場合、詐欺によって利潤が生じる可能性があっても、それが道徳的行動をとることによるメリットを上まわらなければ、詐欺をしない。このような仮定は場当り的であり、一般に経済学者は嫌うけれども、私は現実の詐欺をふくんだ犯罪行為を分析するために考慮する価値がある仮定だと思う。

より、経済学者にうけいれやすい仮定は市場の外に道徳的行動をとるとなんらかの利得をえられるセッティングをすることである。それはバレれば刑務所にはいるという単純なものでもよい。この環境の変化が詐欺師のいる市場の状況をどう変化させるか分析することも可能である。

市場の内部だけで、すべての主体が詐欺にならないこモデルも可能である。それは、買い手が商品を買ったあと、どの売り手から買ったか憶えていて、詐欺の売り手からは二度と、あるいは一定期間商品を買わないと仮定することである*1。これは典型的な繰り返しゲームの状況で、結果としては、売り手が将来の売上げを軽視するほど、また、今回の詐欺による利得がまっとうな商売をする利得をうわまわるほど、詐欺が起りやすくなる。

このあたりの問題はたしか「ヤバい経済学」に書いてなかったっけ。たぶん、今回も車輪の発明のような気がする。そういえば、昔、秋葉さんという方が犯罪の経済学って書いてて*2、同僚の研究室でみせてもらって、「強姦供給関数」なんてでてきてびっくりした。

*1:正確には買い手の合理的な戦略決定としてこのような戦略が得られる。

*2:記憶があいまいなので、ぐぐってください。